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学者の目から見た、産学協同開発:いちき串木野市のケース

2008年10月2日

asahi.comより

ごみ発電施設「失敗」 地元自治体、補助金3億円返還へ

ごみを処理しながら発電して年間2千万円の収入が見込まれる「世界初の施設」として、鹿児島県いちき串木野市が導入したごみ処理施設について、会計検査院が「施設の審査が不十分で、計画通りに稼働していない」と指摘していたことが分かった。指摘を受け、環境省などは同市に国の補助金約3億1千万円の返還を求める考えだ。

市は返還に応じる意向で、開発した東京工業大学大学院教授やメーカーらを相手取り、建設費など約10億5千万円の損害賠償訴訟を起こす方針を固めている。


こんなことで、大学教授に対して億単位の損害賠償が行われるとすると、研究する側としてはたまったものではない。

しかも、国は補助金の返還を求めるとか。思うに、これが国が推進する、産学協同研究の実態であろう。そもそも、こういったことを大学にやらせることに無理があるとしか考えようがない。

まず問題なのは、今回のケースのように『夢のような焼却炉』の可能性があるケースに対して国が出した補助金を、国が返還せよと要求していること。今まで実運用のなかった理論に対して予算を出しているのは、研究段階としか解釈しようのないことで、理論と実際の間に開きがあるのは分かりきっていることだ。にもかかわらず、研究が失敗したからと、すでに出した研究予算を変換せよと命じられるのなら、だれもこんな研究はしなくなる。

さらに問題なのは、産学協同研究において、『学』の側にリスクを負わせようとしていること。そういったリスクを考えながら運営するのは、『産』の側なのであって、『学』はあくまで新しい理論や研究を行う場所のみであるべきである。

今回のケースについて、発注先が大学でなくて一般企業だとすると、どうなるか。まだ完全なテストをしていない研究段階の商品である。なので、新たな予算を追加して、販売前に十分なテストを繰り返して問題のない商品に仕上げることが第一の可能性。もう一つの可能性としては、リスクを犯して販売するということ。この場合、うまく行かなかったときのために保険をかけるのが、当たり前の方法であろう。いずれにせよ、そういったテスト用の予算、もしくは保険用の予算が、販売価格に上乗せされるのである。もしこういった予算が発注した焼却炉の中に含まれていたとしても、市はそれを支払い、国は補助金を出したのであろうか?

こういった経営の仕方は、大学教授や、文科省が推奨するベンチャービジネスでは不可能なことである。ならば、そういったリスクについて自治体や国がしっかり責任を持たなければ、大学が関係するビジネスの多くが破綻するだろう。これが、国が推奨する産学協同研究の現実ではなかろうか。

国や自治体には、こうったことで楽をしようと思うな、甘く見るなと言いたい。大学等の研究機関を、良いように使おうとしているだけではないのか?

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