2017年、大相撲春場所を見終えて
2017年3月27日
今年の大相撲春場所(大阪場所)は、新横綱稀勢の里の2場所連続の優勝で幕を下ろした。千秋楽で、星一つの差で追う大関照ノ富士との一番に勝利し追いつき、優勝決定戦でも照ノ富士を下しての、劇的な逆転勝利である。久々の日本人横綱の優勝であり、メディアでの報道も、方々でさぞかし沸いたであろう。
日本相撲協会理事長の八角親方は「今後、語り継がれる逆転優勝だ」とのコメントを残し、稀勢の里関の優勝を絶賛した。しかしながら、今場所の稀勢の里の優勝を、冷めた目で見ている好角家は、少なくないだろうと思われる。以下、今場所に対する私の主観を述べたい。
そもそもの始まりは、11日目の琴奨菊関と勢関の取り組みにさかのぼる。
10勝以上をあげての大関復帰を目指したい琴奨菊はここまで7勝3敗。残り5日間で3勝をあげなければならない。しかも、今場所優勝争いを行なっている大関照ノ富士との取り組みを残している。怪我のために1勝9敗とここまで精彩を欠く勢との一戦は、絶対に落とせない一番だった。
ここで琴奨菊が見せたのは、立ち会いでの左への変化。左四つが得意な琴奨菊が左に変化すれば、左下手は引きにくい筈で、なぜ左に動いたのか分からない。しかも、変化が中途半端で、逆に勢の叩き込みに破れるという結果になってしまった。小細工などせず、正面から正々堂々と戦っていれば、順当に勝てたはずの一戦であるが、この一番に破れたのが致命的であり、大関復帰を果たせなかった一番の原因だと言って良い。その後、宝冨士に敗れ、結果として8勝5敗の成績で14日目の照ノ富士との取り組みを迎えた。大関復帰のためにはもう負けられない相撲である。
14日目の照ノ富士・琴奨菊の取り組みで、照ノ富士が立ち会い変化の注文相撲を見せ、照ノ富士が勝利。この瞬間に、琴奨菊の大関復帰の望みは絶たれた。大阪府立体育会館内は、ブーイングの嵐だったようである。テレビで観戦していた私も、おもわず「照ノ富士、それはないわ!」と叫んだ。
膝の故障でここ1年思わしくない成績が続いた照ノ富士は、今場所は膝の怪我がかなり良くなったらしく、13日目まで12勝1敗の好成績で、稀勢の里と共に優勝争いを演じていた。ただ、この日の照ノ富士の膝のテーピングは前日より少しきつめだった。土俵に上がり続けていくうちに、痛みが再発したのだろうと思われる。その膝の怪我が、立ち会いでの変化を決めた一因になったのかもしれない。運の悪いことに、この注文相撲が琴奨菊の大関復帰の望みを完全に絶つ一番になってしまった。琴奨菊ファン、もしくは日本人力士ファンの人たちから見れば、照ノ富士憎しの気持ちが強くなったであろう事は、想像に難くない。ただし、千秋楽の稀勢の里も、変化で照ノ富士に勝利したことは、指摘しておく。
かたや、12日目まで全勝の稀勢の里は、13日目に横綱日馬富士との取り組みで左手を負傷し、救急車で病院に運ばれた。土俵際で体をひねりながらの左手からの突き落としを試みたことが悪かったのか、日馬富士に寄り倒された後、左肩から土俵下に落ちたのが悪かったのか、その両方なのか、分からない。稀勢の里は12日目に荒鷲関に勝った相撲でも左肩から土俵に落ちており、これが遠因になった可能性もある。
14日目の横綱鶴竜との取り組みでは、全く相撲にならなかった。本来ならば、稀勢の里は休場を決断しないといけなかったのは、明かである。もう少し言えば、鶴竜と対戦する前に、休場するべきであった。そうしていれば、照ノ富士が琴奨菊戦で立ち会い変化することもなかっただろうと思われる。
以上のような状況の中で、千秋楽に稀勢の里が2勝して優勝した姿を見せられても、私は興ざめであった。稀勢の里と照ノ富士の取り組み、2番とも、まともに実力を出し合って技と技のぶつかり合いで勝負が決したように、見えない。そこには何か、別の力学が働いていたように感じられた。千秋楽の北の富士さんの解説に、いつものような冴えが無い様に感じられたのは、私だけであろうか。
皆で見守ってようやく誕生した日本人横綱の稀勢の里を、たった一場所でつぶしてしまうことになりかねない、最後の二日間であった。稀勢の里のファンの一人として、あの2日間の相撲で左腕がおかしくなってしまっていないことを、切に願う。一場所でも多く、活躍して欲しい。
繰り返しになるが、あの大怪我をした後は、休場するべきであった(あるいは、土俵入りを見せるだけぐらいの感じ)。番付が決して落ちることのない横綱という立場にある以上、他の力士に対する影響も考えると、こういった場面での休場は責務であると考える。相撲協会が出場を懇願したのだとしたら、力士の使い捨てではないか。この辺りのことに関しては、公傷による休場の復活ということも加えて、協会にはよく考えて欲しい。
照ノ富士は、残念ながら優勝を逃した。千秋楽での稀勢の里との取り組みで精彩を欠くように見えたが、これが14日目の琴奨菊戦での取り口が理由の叱責(相撲ファンからの物、親方や相撲協会からの物、メディアからの物、色々あったと思われる)による精神的なことが原因なのか、膝の怪我による物か、或いは別に理由があるのか分からない。しかし、結果として優勝できなかったのは、もしかしたら照ノ富士にとっても良かったのかも知れないと思っている。ライバルの琴奨菊を注文相撲で破って優勝し、次の場所も好成績をあげて横綱になった場合のことを心配した。照ノ富士がモンゴル出身であることもあり、しかも、ちょっと荒っぽい相撲を取ることから、今の日本の社会風潮では「悪役横綱の一丁上がり」といった風になりそうな気がしたからである。
来場所以降、横綱稀勢の里と大関照ノ富士の、ガチンコの勝負を楽しみにしている。
日本相撲協会理事長の八角親方は「今後、語り継がれる逆転優勝だ」とのコメントを残し、稀勢の里関の優勝を絶賛した。しかしながら、今場所の稀勢の里の優勝を、冷めた目で見ている好角家は、少なくないだろうと思われる。以下、今場所に対する私の主観を述べたい。
そもそもの始まりは、11日目の琴奨菊関と勢関の取り組みにさかのぼる。
10勝以上をあげての大関復帰を目指したい琴奨菊はここまで7勝3敗。残り5日間で3勝をあげなければならない。しかも、今場所優勝争いを行なっている大関照ノ富士との取り組みを残している。怪我のために1勝9敗とここまで精彩を欠く勢との一戦は、絶対に落とせない一番だった。
ここで琴奨菊が見せたのは、立ち会いでの左への変化。左四つが得意な琴奨菊が左に変化すれば、左下手は引きにくい筈で、なぜ左に動いたのか分からない。しかも、変化が中途半端で、逆に勢の叩き込みに破れるという結果になってしまった。小細工などせず、正面から正々堂々と戦っていれば、順当に勝てたはずの一戦であるが、この一番に破れたのが致命的であり、大関復帰を果たせなかった一番の原因だと言って良い。その後、宝冨士に敗れ、結果として8勝5敗の成績で14日目の照ノ富士との取り組みを迎えた。大関復帰のためにはもう負けられない相撲である。
14日目の照ノ富士・琴奨菊の取り組みで、照ノ富士が立ち会い変化の注文相撲を見せ、照ノ富士が勝利。この瞬間に、琴奨菊の大関復帰の望みは絶たれた。大阪府立体育会館内は、ブーイングの嵐だったようである。テレビで観戦していた私も、おもわず「照ノ富士、それはないわ!」と叫んだ。
膝の故障でここ1年思わしくない成績が続いた照ノ富士は、今場所は膝の怪我がかなり良くなったらしく、13日目まで12勝1敗の好成績で、稀勢の里と共に優勝争いを演じていた。ただ、この日の照ノ富士の膝のテーピングは前日より少しきつめだった。土俵に上がり続けていくうちに、痛みが再発したのだろうと思われる。その膝の怪我が、立ち会いでの変化を決めた一因になったのかもしれない。運の悪いことに、この注文相撲が琴奨菊の大関復帰の望みを完全に絶つ一番になってしまった。琴奨菊ファン、もしくは日本人力士ファンの人たちから見れば、照ノ富士憎しの気持ちが強くなったであろう事は、想像に難くない。ただし、千秋楽の稀勢の里も、変化で照ノ富士に勝利したことは、指摘しておく。
かたや、12日目まで全勝の稀勢の里は、13日目に横綱日馬富士との取り組みで左手を負傷し、救急車で病院に運ばれた。土俵際で体をひねりながらの左手からの突き落としを試みたことが悪かったのか、日馬富士に寄り倒された後、左肩から土俵下に落ちたのが悪かったのか、その両方なのか、分からない。稀勢の里は12日目に荒鷲関に勝った相撲でも左肩から土俵に落ちており、これが遠因になった可能性もある。
14日目の横綱鶴竜との取り組みでは、全く相撲にならなかった。本来ならば、稀勢の里は休場を決断しないといけなかったのは、明かである。もう少し言えば、鶴竜と対戦する前に、休場するべきであった。そうしていれば、照ノ富士が琴奨菊戦で立ち会い変化することもなかっただろうと思われる。
以上のような状況の中で、千秋楽に稀勢の里が2勝して優勝した姿を見せられても、私は興ざめであった。稀勢の里と照ノ富士の取り組み、2番とも、まともに実力を出し合って技と技のぶつかり合いで勝負が決したように、見えない。そこには何か、別の力学が働いていたように感じられた。千秋楽の北の富士さんの解説に、いつものような冴えが無い様に感じられたのは、私だけであろうか。
皆で見守ってようやく誕生した日本人横綱の稀勢の里を、たった一場所でつぶしてしまうことになりかねない、最後の二日間であった。稀勢の里のファンの一人として、あの2日間の相撲で左腕がおかしくなってしまっていないことを、切に願う。一場所でも多く、活躍して欲しい。
繰り返しになるが、あの大怪我をした後は、休場するべきであった(あるいは、土俵入りを見せるだけぐらいの感じ)。番付が決して落ちることのない横綱という立場にある以上、他の力士に対する影響も考えると、こういった場面での休場は責務であると考える。相撲協会が出場を懇願したのだとしたら、力士の使い捨てではないか。この辺りのことに関しては、公傷による休場の復活ということも加えて、協会にはよく考えて欲しい。
照ノ富士は、残念ながら優勝を逃した。千秋楽での稀勢の里との取り組みで精彩を欠くように見えたが、これが14日目の琴奨菊戦での取り口が理由の叱責(相撲ファンからの物、親方や相撲協会からの物、メディアからの物、色々あったと思われる)による精神的なことが原因なのか、膝の怪我による物か、或いは別に理由があるのか分からない。しかし、結果として優勝できなかったのは、もしかしたら照ノ富士にとっても良かったのかも知れないと思っている。ライバルの琴奨菊を注文相撲で破って優勝し、次の場所も好成績をあげて横綱になった場合のことを心配した。照ノ富士がモンゴル出身であることもあり、しかも、ちょっと荒っぽい相撲を取ることから、今の日本の社会風潮では「悪役横綱の一丁上がり」といった風になりそうな気がしたからである。
来場所以降、横綱稀勢の里と大関照ノ富士の、ガチンコの勝負を楽しみにしている。