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多剤耐性を示す、NDM-1遺伝子について

2010年8月18日

ベルギーにおいて、抗生物質の効かない細菌の感染により、患者が死亡したケースが報告された。

YOMIURI ONLINE: 抗生剤きかぬ「スーパー細菌」欧米猛威…印から?

これは、NDM-1と呼ばれる、新規に発見された薬剤耐性の遺伝子を持つ細菌の感染によるものである。さまざまな情報が行きかっているので、私なりの意見を書いておきたい。

特性について

1)NDM-1は、遺伝子の名前
  一部の報道で、ウィルスだとされているが、これは誤り。NDM-1は、薬剤耐性に関連する遺伝子の名前。遺伝子名としてNDM-1と呼ぶのはどうやら略称のようで、正確には、blaNDM-1のようである。

2)感染するのは、細菌
  これも、一部の報道でウィルスだとされているが、細菌(バクテリア)の誤り。細菌がこのNDM-1と遺伝子を持つと、多剤耐性になる。

3)色々な細菌に取り込まれやすい
  NDM-1は、プラスミドと呼ばれる、染色体とは別の小さなDNA断片に存在する。このDNA断片は細菌から別の細菌に、容易に移動する。そのため、NDM-1遺伝子を持つ、他の細菌がこれから現れる可能性が高い。Enterobacteriaeと呼ばれるグループ(大腸菌やサルモネラ菌など)に拡散されると考えられる。

気をつけるべきこと。

1)必要以上に恐れることはない
  MRSAなどと同様、院内感染を起こした場合に、抗生物質がほとんど効かないため治療が困難になる。しかし、仮に通常の生活において飲料水などから感染しても、治療が必要になるケースはほとんどないと思われる。

2)空気感染はしない
  昨今では新型インフルエンザやSARSなどのウィルスのアウトブレイクがあったが、これらの感染症とはまったく異なる。空気感染は起こらないし、健康な人が感染しても、治療が必要になるようなケースや、死にいたるようなケースはほとんどないと思われる。

3)医療関係者は、今後の情報に注意
  上記で述べたとおり、細菌間での拡散が早いと思われる。ベルギーでのケースでは、一般にNDM-1を持つ耐性菌にも有効だとされていたcolistinが効かなかった。他の抗生物質(vancomycinなど)が有効であるかどうかの情報が今後公表されてゆくはずである。

4)抗生物質を使いすぎることへの警鐘と捉えるべき
  抗生物質を使いすぎると、耐性菌を選択的に増殖させることになり、結果として今回のように多剤耐性菌の進化を速めてしまう。抗生物質の使用は、必要最小限にとどめるべきだ。家畜のえさに混ぜるなどの使用方法は、もってのほかだと考える。

参考文献
 ・The Lancet Infectious Diseases: Emergence of a new antibiotic resistance mechanism in India, Pakistan, and the UK: a molecular, biological, and epidemiological study
 ・Antimicrob Agents Chemother: Characterization of a new metallo-beta-lactamase gene, bla(NDM-1), and a novel erythromycin esterase gene carried on a unique genetic structure in Klebsiella pneumoniae sequence type 14 from India.

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