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ハヤブサの帰還と科学の将来について

2010年6月14日

小惑星イトカワを探査した探査機、ハヤブサが地球に帰還した事は、多くの方がご存知だと思います。NASAにより撮影された大気圏突入時の映像が、YouTubeに載っているので紹介します。


オーストラリアの砂漠に無事着地したカプセルの中に、イトカワの砂粒が入っていることを期待します。生物学者の私としては、そこから有機物が検出されるのかどうかというのが、一番の興味です。イトカワの表面に有った砂は太陽からの紫外線を受けていたはずなので、複雑な構造の有機物が発見されることはほとんど期待できません。可能性としてはグリシンやアラニンなどの、もっとも構造が簡単なタイプのアミノ酸の検出が考えられます。あるいは、核酸の構成成分であるリボースなどの糖類が検出されれば、エキサイティングです。

ところで、上に紹介した映像を見ると、燃え尽きた探査機よりも燃えずに飛び続けたカプセルのほうが主役に思えます。数々の仕事をこなしてきた探査機に対して、さまざまな方が感情をこめて色々なことをおっしゃっていますが、私にはカプセルのほうが本体で、燃え尽きた部分はカプセルを運んだ入れ物のように思えてきました。「燃え尽きた探査機がかわいそうだ」という気持ちよりも、カプセルに対して「よく帰ってきた!」という気持ちのほうが強いですね。

ハヤブサ計画について、事業仕分けなどと合わせて色々と言われていますが、私が目にする議論はすべて結果論です。ハヤブサが無事に帰ってきたからこの計画が正しかったわけで予算を削るべきではないとか、逆にカプセルの中には何も入っていなかったから(実際どうだか、まだ分かりませんが)計画が間違っていて事業を中止すべきだとか、そういう議論は滑稽で、間違っていると思います。

個々の学術研究は当然ながら成功を目指してがんばりますが、必ずしもすべてが目標どおりの成果を収めるわけではありません。研究とは、現在まで誰もなしえなかったことを、世界中でたった一つのグループが行うことですから、どれも難しいのです。万一カプセルの中に何も入っていなくても、皆でこの研究を評価しようではありませんか。それと、今後のハヤブサ類似の計画をどう進めるかは、また別の話です。

最後に。有機物が、生き物の力によらず無機物から生み出されうる事を証明したのはミラーですが、彼の実験はごく限られた予算で行われたはずです。しかも、彼が実験していたときは、その仕事を認める人は誰もいませんでした。画期的とも呼べるような研究は、必ずしも多額の研究費を投入して行われたものとは限らないということを、知っていただきたいと思います。

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