放射能

東電の原発事故で、「放射能による直接の被害者は一人も居ない」と主張する人たちへ

2013年6月19日

自民党の高市政調会長が「福島第一原発で事故が起きたが、それによって死亡者が出ている状況ではない」と発言した後、それを撤回したことについて、気になるところがあるので述べておきたい。

政調会長のこの発言に対する抗議としては、過酷な避難で亡くなられた方や精神的に追い詰められて自殺された方など、いわゆる原発事故関連死と認定された方々の存在に基づくものがほとんどのように見受けられる。

そういった抗議ももっとものことであるが、それ以前の問題として、本当に原発事故による放射能漏れが直接の原因となる死亡者が一人も居ないのかどうかということを考えねばなるまい。

おそらく、政調会長のこの発言は、チェルノブイリでの原発事故と東電の原発事故を比較しての事だろうと思われる。確かに、チェルノブイリでの原発事故の際、事故後の発電所で作業を行った方々が、程なくして亡くなっている。他方で、東電の原発事故では、こういった死者は報告されていない(参考:1999年の東海村JCO臨界事故では2人亡くなっている)。こういった事故直後の死者は、以前このブログでも話題にしたように、確定的影響によるものである。しかし、原発事故の際は、こういった確定的影響のみならず、確率的影響による死、つまり癌について考えなければならない。「放射能による直接の被害者は一人も居ない」と主張する人は、この、癌による死者を無視しているか、確率的影響について全く理解が出来ていないと考えられる。

スタンフォード大学の研究によると、東電の原発事故により、世界全体で最大2500人が癌を患い、このうち最大1300人が亡くなる計算になるそうだ。これは、現在認定されている1000人強の原発事故関連死の死者数と比べて、決して少ない値ではない。

ただし、1300人が原発事故による癌で亡くなったとしても、いったいどの1300人がそれに当てはまるのかは、分からない。原発事故以外にも癌になる原因はたくさんあるからで、原発事故によって癌になったのか、その他の事項により癌になったのか、ほとんどの場合はその原因を特定することは出来ないのである。しかも、この1300という値よりも2桁以上高い人数が、原発事故以外の原因で癌を患うため、癌患者全体の数の変化としても、統計的に優位な値として観察することは無理であろう。

しかし、観察することが無理だからといって、原発事故による死者の数がゼロだということにはならない。それは見えないだけで、すでに存在する、あるいは今後存在することになる、原発事故による直接の死者なのだ。

以前にも指摘したことがあるが、改めて「放射能による直接の被害者は一人も居ない」という解釈は間違いであることを指摘しておく。

コメント

I value the post.Thanks Again. Awesome. (2015年8月2日 05:33:17)

I value the post.Thanks Again. Awesome.

コメント送信